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東京地方裁判所 平成元年(ワ)12784号 判決 1990年6月22日

原告 中山太陽堂興産株式会社

右代表者代表取締役 中山正子

右訴訟代理人弁護士 山本忠雄

右訴訟復代理人弁護士 大竹秀達

中村誠

被告 ダイリン株式会社

右代表者代表取締役 生井勝利

右訴訟代理人弁護士 立石邦男

吉田忠司

中村覚

右訴訟復代理人弁護士 郷原友和

土田正弘

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、別紙標章目録(一)、(二)記載の各標章を付した頭皮用育毛剤及びシャンプーを製造販売し、販売のために展示してはならない。

2  被告は、その所持する前項記載の各標章を付した頭皮用育毛剤及びシャンプーから前項記載の各標章を除去し、右各標章を付した頭皮用育毛剤及びシャンプーに関する包装物及び宣伝広告物を廃棄せよ。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は、次の商標権(以下「本件商標権」といい、その登録商標を「本件商標」という。)を有している。

出願日 昭和五八年一二月八日

公告日 昭和六〇年九月一三日

登録日 昭和六一年四月二三日

登録番号 第一八五六八九九号

登録商標 別紙商標目録記載のとおり

指定商品 第四類 せっけん類、歯みがき、化粧品、香料類

2  原告は、昭和六一年四月二三日、原告の関連会社である訴外株式会社クラブコスメチック社に対し、本件商標権について通常使用権を許諾し、同社は、薬用頭皮用育毛料(以下「原告商品」という。)を製造し、これに本件商標を付して同じく原告の関連会社である訴外株式会社フルベールを通じて販売している。

3  被告は、化粧品等の製造販売を業とするものであるが、頭皮用育毛剤及びシャンプー(以下「被告商品」という。)に別紙標章目録記載の各標章(以下これらを総称して「被告標章」という。)を付して販売し、また、広告宣伝に被告標章を付している。

4  被告標章は、以下のとおり、本件商標に類似している。

(一) 本件商標は、「大森林」の文字からなるものであるから、「森林」、すなわち、「森」又は「林」の観念を生じる。他方、被告標章は、「木林森」の文字から成るものであるから、同じく「森」又は「林」の観念を生じる。したがって、被告標章は観念において本件商標と同一である。

商標法上、商標の類否判断は、登録商標と対象標章のそれぞれの現実の使用態様を考慮に入れて行われるべきものである。これを本件についてみると、前記の原告の関連会社は、原告商品の青味がかった黒色地の容器と包装箱に金色で大きく縦書きした本件商標を付しており、そのイメージは、深い木々に覆われた森林の持つ自然で静謐な観念を看者に与えるものであるが、このことは、本件商標が現実の使用態様のもとにおいて右のような観念を有することを意味する。他方、被告は、被告商品の広告にみられるように、深い木々に覆われた森林を全面的に演出し、また、原告商品の容器及び包装箱と酷似した黒色系統の単一色地の容器及び包装箱に金色で大きく被告標章を付しており、そのイメージは、木々に覆われた森の帯有する自然さ、静謐さそのものであって、このことは、被告標章が現実の使用態様のもとにおいて右のような観念を有することを意味する。したがって、一般需要者にとって、両商品について出所の混同が生じていることは明白であって、本件商標と被告標章とは、観念を共通にするものというべきである。

(二) 本件商標の語頭は、「大」であるのに対し、被告標章の語頭は、「木」であって、両者は、語頭の称呼を異にするが、両者とも語頭は、本質的部分ではない。その本質的部分は、本件商標では「森林」、被告標章では「林森」であって、この両者は、称呼上は、「しん」と「りん」を相互置換したものにすぎない。したがって、本件商標と被告標章とは、時と場所を異にして両者を離隔的に聴取するとき、本質的部分である「森林」及び「林森」の部分において称呼上も類似しているといえる。

(三) 本件商標と被告標章とは、時と場所を異にして両者を離隔的に観察するとき、全体的外観において混同を生じやすく、類似しているといえる。

5  被告商品は、本件商標権の指定商品と類似している。このことは、次の点から明らかである。すなわち、被告が被告商品に被告標章を付して製造販売した場合、原告商品とその製造方法、販売ルート及び用途において一致しているから、一般需要者は、両者の容器の形状及び色彩が類似していることと相まって、両者を誤認し、その出所について混同することが明白である。

6  以上のとおりであって、被告の被告標章の使用行為は、原告の有する本件商標権を侵害するものであるから、原告は、被告に対し、被告標章を付した被告商品の製造販売及び販売のための展示の差止めを求めるとともに、被告商品からの被告標章の除去及び被告標章を付した包装物及び宣伝広告物の廃棄を求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1及び2の事実は知らない。

2  同3の事実は認める。

3  同4及び5の事実は否認する。

第三証拠関係《省略》

理由

一  《証拠省略》によれば、請求の原因1の事実を認めることができる。

二  請求の原因3の事実は、当事者間に争いがない。

三  そこで、請求の原因1及び3の事実に基づき、本件商標と被告標章との類否について検討する。

本件商標は、「大森林」の漢字を楷書体で横書きした文字から成り、他方、被告標章は、「木林森」の漢字を行書体で縦書き又は横書きした文字から成るものであるから、外観において類似しないことは明らかである。この点に関して、原告は、本件商標と被告標章とは、時と場所を異にして両者を離隔的に観察するとき、全体的外観において混同を生じやすく、類似している旨主張するが、「大」と「木」の相違及び「森林」と「林森」の前後の相違に照らし、離隔的、全体的に観察しても、両者は、外観において類似するものとは認められないから、原告の右主張は、採用することができない。

次に、称呼についてみるに、本件商標及び被告標章は、右のとおりの漢字三文字から成るものであるところ、「大森林」は、それ自体熟語であって、「だいしんりん」と一気に読まれるか、仮にそうでないとしても「森林」という熟語に「大」の文字を冠したものとして、せいぜい「だい」「しんりん」と切って読まれるにとどまるものと認められるのに対し、「木林森」は、それ自体熟語ではなく、また、その中に熟語を含むものでもないから、各文字の有する音又は訓により、一気に読まれるか、切って読まれるかは別として、「もくりんしん」又は「きはやしもり」と読まれるものと認められる。したがって、両者は、称呼においても類似しないものといわざるをえない。原告は、「大」と「木」は本質的部分ではなく、本質的部分は「森林」と「林森」の部分であって、この両者は、称呼上は、「しん」と「りん」を相互に置換したものにすぎないから、本件商標と被告標章とは、時と場所を異にして両者を離隔的に聴取するとき、本質的部分である「森林」及び「林森」の部分において称呼上類似している旨主張する。そこで審案するに、仮に本件商標において「大」が本質的部分でないとすると、「森林」の上にわざわざ「大」の文字を冠した意味が失われてしまうのであるから、「大」は本質的部分ではないとすることはできず、また、被告標章は、「木」、「林」、「森」のそれぞれ独立した文字を三つ並べたものであり、三者の違いは、「木」一つ、「木」二つ、「木」三つという点にあるだけであって、どれが本質的部分であり、どれが本質的部分ではないといえるような構成ではないから、その中から「木」のみを取り出して、これを本質的部分ではないとすることにはその根拠を見出すことができず、したがって、原告の右主張は、その前提を欠き、採用することができない。また、仮に原告主張の前提が成り立つとしても、時と場所を異にして両者を離隔的に聴取するとき、「森林」及び「林森」の部分において称呼上類似しているとも認められず、したがって、この点においても、原告の右主張は、採用の限りでない。

更に、観念について検討すると、本件商標は、「森林」という樹木が密生する場所を意味する熟語の語頭にこれを形容する「大」の文字を冠したものであるから、大きな森林、すなわち、多数の樹木が密生した広大な場所という観念を生じるのに対し、被告標章は、「木」「林」「森」という「木」で構成される文字を「木」の数の少ないものから多いものへと順に組み合わせた語であるから、特定の具体的な観念は生じず、樹木に関した漠然とした観念しか生じないものと認められ、したがって、両者は、観念においても類似しないものといわなければならない。原告は、両者とも、「森」又は「林」の観念を生じるから、被告標章は、観念において本件商標と同一である旨主張するところ、両者の中から同一文字を抽出し、その両者を比較すれば、同一文字同士であるから、その間においては、当然に観念において同一であるということになるが、そうであるからといって、そのことから直ちに全体として三文字から成る本件商標と被告標章とが観念において同一であるということにはならず、かえって、両者が観念において類似しないことは、右認定判断のとおりであり、したがって、原告の右主張は、採用することができない。また、原告は、両者の現実の使用態様を考慮すれば、両者は観念を共通にするものである旨主張するが、《証拠省略》により、その状況を想定することのできる本件商標が使用される指定商品の取引の実情及び現に行われている被告標章が使用された被告商品の取引の実情を考慮しても、両者の類否に関する前認定判断に照らせば、両者は観念において類似するものと認めることは困難であるから、原告の右主張も、採用の限りでない。

右のとおり、被告標章は、本件商標と外観、称呼及び観念のいずれにおいても類似せず、また、これらを総合して考察しても、被告標章は、本件商標に類似するものとは認められない。

四  よって、原告の本訴請求は、理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 一宮和夫 三村量一)

<以下省略>

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